壺齋散人の 美術批評
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十字架を担うキリスト:ボスの世界



十字架を担うキリストの像は中世末期の画家が好んで取り上げたテーマだ。ボスも少なくとも三点描いている。そのなかで最も初期のものと思われるのがこの作品、もともとは三連式の祭壇画の左翼だったのではないかと推測されている。おそらく中央部にはキリストの磔刑のシーン、右翼部にはキリストの埋葬あるいは昇天のシーンが描かれていたはずだという。

図柄の構成は、「この人を見よ」と同じように、上下の二列配置を採用している。上部の列では十字架を担ったキリストと、彼を取り囲む群衆が描かれ、下の列では、これもまた処刑されることになっている二人の犯罪者が描かれている。奇しくも、キリストと二人の犯罪者が三角構図となっている。

キリストは茨の冠をかぶせられ、十字架の重みに耐えかねて前のめりになっている。その足は釘の突き出た板を踏んでいる。キリストの右手の男は、縄を振り回しているが、恐らくキリストを駆り立てているのであろう。その更に右手には、キリストを縛った縄を引っ張っている男がいるが、その男が担いでいる盾には、ヒキガエルの彫り物が施されている。ヒキガエルは邪悪のシンボルだ。

梯子や槍を持った男たちとともに大勢の男たちがキリストの周りに群がっているが、彼等はみな前へ前へと急いでいるように見える。一刻も早く目的地のゴルゴダの丘に着き、キリストが十字架にかけられるところを見たいといっているようだ。だから彼らの表情にはわくわくとした期待感のようなものが漂っている。

二人の犯罪者のうち左手の男は、縄で縛りあげられているにもかかわらず、じたばたと抵抗している様子だ。右手の男は観念して、司祭の前で両手を合わせている。それに対して司祭の方は、なにやらあくびをこらえている様子である。彼らの背後には一本の大きな材木が立てられたばかりで、その足元には梯子が転がっている。この梯子を用いて犯罪者を木の上にくぎ付けしようというのだろうか。

(板に油彩、57.2×32cm、ウィーン美術史美術館)





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