壺齋散人の 美術批評 |
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キリストの磔刑:ボスの世界 |
中世の末期にはキリスト磔刑のシーンが画家たちにとってもっとも重要なテーマだった。あるものはそこに深い宗教的な感情を盛り込もうとし、あるものは人間性の邪悪と清浄さの対立をもり込もうとし、あるものは受難の神聖さを表現しようとした。ボスの場合はどうか。 この絵は、十字架にかけられたキリストを中心にして、一組の男女〜夫婦と思われる〜と二人の聖人を配したものだ。キリストの描き方は、様式化されたもので、教会の祭壇にごく普通に見られるものと大差はない。しかし前面に描かれた男女と聖人とは、ほかの磔刑図ではみられないものである。ボスは何故、こんな構図を取り入れたのであろうか。 男女は、恐らくはス・ヘルトーヘンボスあたりの商人の夫婦かもしれない。男の服装がそれを推測させる。女のほうは白い頭巾をかぶり、法衣のようなものを着ているが、尼僧らしき雰囲気にはみえない。やはり夫婦としてキリストの磔刑像にお祈りしているといった様子にみえる。 男の背後にいるのは聖ペテロ、その手には天国の扉の鍵が握られている。夫婦の信仰心に応えて、聖ペテロは彼らに天国への道を保証しているのだろう。女の傍らに付き添っているのは聖ヨハネ。その手には聖書がある。 こうしてみれば、この絵は、人々に信仰を進める目的で作成された教会の奉戴画とみられなくもないが、もしかしたら、商人夫婦によって依頼された信仰の証の絵なのかもしれない。 背後にはス・ヘルーヘンボスと思われる都市の光景が広がっている。アンバランスなほど高い建物があるが、ボスの空想からでてきたのであろう。また前面には髑髏や骨が散らばっているが、これはボス一流のユーモアだろう。 (板に油彩、73.5×61.3cm、ブリュッセル王立美術館) |
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