壺齋散人の 美術批評
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人を食う鳥:ボス「悦楽の園」




愛の園における鳥たちは、愛の歌を歌っているが、地獄における鳥は人間を貪り食う。「悦楽の園」右側パネルの右下に描かれている巨大な鳥の化け物がそれだ。愛の園の歌う鳥と違って、この化け物は、頭部は鳥だが胴体と四肢は爬虫類のそれを思わせる。

長い脚をもつ玉座に坐した鳥は、球形の冠を戴いて、人間を鷲掴みにしては、頭から呑み込む。鳥にはふつう歯はないから、丸呑みするわけだ。呑み込まれた人間は鳥の体内を通過して後、尻の穴からひり出される。この絵の中では、二人の人間が出てくるところだ。

排泄された人間は、椅子の下にあいた穴の中に堕ちていくが、その穴には人間の臓物が発酵している。おそらく人間の肉の塩辛を作っているのであろう。食いごろになった人間の頭が浮かんでいるのが見える。

魔女に首根っこを抑えられている男は、腹の中から臓物を吐き出しているのだろう。

穴の傍らには裸の女が、黒いオオカミの化け物に抱えられている。女の前に突き出された臀部は鏡になっていて、そこに女の顔が写っている。その顔を女は、見るともなしに見ている風情である。

女の向う側には、責め苦を受ける裸の男たちが描かれている。尻の穴に棒を差し込まれた男が巨大なリュートを背負わされ、其のリュートを太った男が吹き鳴らしている。その男の隣りで耳を塞いでいるものがいるが、恐らくリュートの音が耳をつんざくほどに大きいのだろう。

どの場面をみても、現実を超越した異常さに満ちている。その異常さが何を物語っているのか、それは良くわからない。





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