壺齋散人の 美術批評
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聖女ユリアの磔刑:ボスの世界




「聖女ユリアの磔刑」と題するトリプティックは、イタリアのカルト集団の注文に応じて描いたのではないかと推測されている。聖女ユリアはまた聖女リベラータともいわれ、その名を冠したカルト集団が16世紀初頭に存在していたことが確認されている。ボスは彼等から注文を受けたのではないかというのである。

中央にユリアの磔刑の様子、左翼には聖アントニウスの瞑想、右翼にはユリアを売りとばした奴隷商人たちが描かれている。当初両翼には、注文者たちの姿が描かれていたのを、後に描き直したということらしい。

聖女ユリアは5世紀にコルシカ島で磔刑に処せられたと伝えられている。もともとはカルタゴの出身で、黒人だったという説もある。この絵のなかでは白人として描かれている。

コルシカ島の金持ちユーセビウスに、奴隷商人の手を介して買われたが、その地の異郷の偶像を礼拝しなかったために、代官のフェリックスによって処刑されたということになっている。

ユリアは服を着せられたまま両手を広げて十字架に張り付けられ、その右下には代官のフェリックスが刑の執行を命令している。左下に倒れているのはユーセビウスと思われる。

これは聖女ユリアではなく、聖女ウィルゲフォルティスを描いたものだとする説もある。伝説によれば、聖女ウィルゲフォルティスは異教徒との結婚を強要されたが、髭を生やしたりして抵抗したために、父親の怒りを買い、磔にされたということになっている。しかし、この画の中の女性には髭はついておらないことから、この説は信憑性に欠けると批判されている。

(パネルに油彩 104×64cm ヴェネチア、ドゥカーレ宮殿)





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