壺齋散人の 美術批評 |
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パトモスの聖ヨハネ:ボスの世界 |
パトモスの聖ヨハネは、「ヨハネによる黙示録」の著者である。新約聖書の中で、予言的な性格が強いこの著作は、福音書はじめ新約の他の著作とは、大きな対照をなしていると捉えられてきた。 ローマ皇帝によってパトモス島に流された聖ヨハネは、そこで一冊の予言書を書き上げる。黙示録とよばれるこの予言書は、陰惨な内容と異教徒的なおもむきが警戒され、長い間聖書の一部分とは見なされなかった歴史がある。 ボスは、この予言書の中でももっともドラマティックな部分である第12章をもとに、この絵を描いたと思われる。この章では、子をみごもった一人の女が、太陽を身にまとい、月を踏みにじった姿で現れ、それに邪悪な龍が襲い掛かる。女は神のおぼしめしによって龍から守られて子を産む。その後、天使ミカエルたちと龍との間で戦いがあり、龍は敗れて地上に転落する、と言う内容だ。 画面の真ん中を塞いでいるのは聖ヨハネその人である。ヨハネは膝の上に書物を置き、右手にはペンを持っている。黙示録を書いているところなのであろう。 ヨハネの視線の先には、一人の女が子を抱きかかえた姿で、太陽に包まれている。いうまでもなく、聖母とキリストのイメージだ。その手前に描かれている羽根の生えた女性は、子どもを産んで身が軽くなった聖マリアだ。マリアはこの翼を羽ばたいて、龍の攻撃から身をかわすのである。 画面右下に描かれている怪物は、龍の姿ではないが、黙示録では龍に当たる化け物だろう。ボスは一流の想像力を働かせて、こんな怪物のイメージを生み出したのだと思われる。 (パネルに油彩、63×43.3cm、ベルリン、国立絵画館SMPK) |
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