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ビスケットの皿とコンポート(Compotier et assiette de biscuits):セザンヌの静物画




1870年代のセザンヌは、ピサロの影響下に印象画風の明るい絵を描くようになるが、静物画にもそうした傾向がうかがえる。光を意識しながら、色の明暗によって対象の形を表現しようとしている。「ビスケットの皿とコンポート(Compotier et assiette de biscuits)」と題するこの絵は、そうした70年代のセザンヌの静物画の到達点を示すとともに、80年代以降の、いわゆるセザンヌらしい静物画への橋渡しのような役目を果たすものとして位置付けられている。

この絵では光の効果は幾分か抑え気味になっている。だがコンポートの側面やテーブルクロスの襞などに、光の当たっていることが強調されている一方、明暗対比による立体感の強調もみられる。

画面の空間配置という点では、水平線と垂直線を巧みに組み合わせている。水平線は長持の輪郭線によって区切られる一方、壁にある十字の模様を用いることで、画面を垂直に分割することを狙っている。垂直方向への分割は三つの次元からなり、それぞれの次元の中に、ビスケットの皿、リンゴの列、コンポートが収まるように配慮されている。

壁にせよ長持の側面にせよ、セザンヌは何色かの絵の具をキャンバスの上に落し、それらをキャンバスの上で混ぜ合わせることで、微妙な色彩効果を演出している。キャンバスをパレット代わりに使っているわけである。

なお、この絵は、明治時代末に日本で出版された画集に収められており(マイヤー・グレーフェ「近代芸術発展史」)、日本人には古くから馴染みのある絵である。

(1877年頃、キャンバスに油彩、53.4×64cm、日本、個人蔵)





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