壺齋散人の 美術批評 |
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果物とワイングラスのある静物(Nature morte avec fruits et verre de vin):セザンヌの静物画 |
「果物とワイングラスのある静物(Nature morte avec fruits et verre de vin)」と題するこの小さな作品は、大きな絵の一部を切りぬいたものだろうと考えられている。たしかに、最初から構想された画面としては多少不自然なところがないでもない。しかしこれはこれで、それなりにまとまっているともいえよう。 壁際に置かれたテーブルの上に、水差し、ボウル、ワインの少し入ったグラス、そしてリンゴを盛った皿が載っている。水差しとボウルの一部が切り取られており、これが上記の推測を呼び起こすわけだが、セザンヌには他にも、器の一部を省略して描いた作品もあるから、当初から意図的にこのような構図にしたのだと解釈できないわけでもない。 描き方の特徴としては、短いタッチを斜めにそろえること、白い器に緑灰色の陰影をつけることなどが上げられる。短いタッチを重ねる技法は、恐らくピサロにヒントを受けて開発したものだと考えられる。セザンヌの中期の絵のひとつの大きな特徴である。 モチーフの配置は、普通の遠近法により、陰影のつけ方も明瞭である。しかし、テーブルの奥の縁の輪郭が揃っていないのがややイレギュラーさを感じさせる。また右上に波打ったような帯状のものが描かれているが、これは壁の平面とどのような関係にあるのか、についても不思議な点がある。見ていると、いろいろ考えさせられる絵である。 (1877~1879年、キャンバスに油彩、26.5×32.5cm、フィラデルフィア美術館) |
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