壺齋散人の 美術批評
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBBS


リンゴとナプキン(Pommes et serviette):セザンヌの静物画




「リンゴとナプキン(Pommes et serviette)」と題するこの絵の最大の特徴は、小刻みなタッチで並行に絵の具を塗っていく画法にある。この画法を、セザンヌは1870年台の後半に意識的に追求したわけだが、静物画においては、この絵がその到達点になったと言ってよいだろう。画面全体にわたってセザンヌは、絵の具を小刻みに、しかも同一方向に平行に塗りつけている。

画面の構成には、伝統的な線遠近法が採用されている。全体が同じ視点から描かれ、左手前から差し込んでいる光が、右向きの影を作り出している。だから、画面は非常に安定して見える。

色の配置をみると、全体的に寒色の割合が圧倒的に大きい。その大部分を背景の壁の色が占めている。おそらくセザンヌは、対象の、目に見えるがままの色彩に囚われたのだろう。

壁に描かれている草花の模様が、立体的に見える。モノトーンのなかで、明暗対比を施したせいだろう。「ビスケットの皿とコンポート」の壁の模様は、このような立体感をいささかも感じさせず、むしろ壁の平面性を強調していたのと比較すると、面白い。

なお、リンゴやナプキンを乗せている台は、テーブルではなく長持のようなものらしい。左下に描かれている錠前のようなものが、そのことを裏書きしているようだ。

(1879-1880年、キャンバスに油彩、49.2×60.3cm、安田火災東郷青児美術館)





HOMEセザンヌ次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2015
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである