壺齋散人の 美術批評 |
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コンポートのある静物(Nature morte avec compotier):セザンヌの静物画 |
1882年に完成した「コンポートのある静物(Nature morte avec compotier)」と題するこの絵は、セザンヌの静物画の流れにとって一つの転機をなす作品だとの評価が高い。それは、セザンヌの中期以降の静物画に特徴的な、画面全体に溢れる色彩の律動感のようなものが、この絵で明確な形をとったからだ。この作品のもつ素晴らしい色彩感は、とりわけゴーギャンに強い影響を与えたといわれる。 果物のふっくらとした感じや、色彩の暖かさは、1880年に完成した「リンゴとナプキン」と比較して明らかだ。「リンゴとナプキン」の中の林檎たちは、それぞれ長い影を引きずっているが、この絵の中の林檎たちは、輪郭線のまわりを暗くすることで、浮かび上がらせるように配慮されている。 壁際に置かれた長持ちの上にモチーフを並べているところはこの二つの絵に共通しているが、絵の雰囲気がだいぶ違って見えるのは、こちらの絵の方が暖色の割合が大きいためだ。壁の色にも、寒色に暖色を混ぜる工夫がなされている。 注目すべきは、コンポートとグラスの描く楕円の扱い方だ。両方の楕円とも、下部に比較して上部の曲線が丸くなっている。これは実際の視覚の印象とは異なっている。実際にはもっと均等な楕円を描くものだ。 中期以降後期になると、セザンヌの静物画には複数の視点が導入されるようになるのだが、この楕円の扱い方は、その前触れのあらわれと言えなくもない。 (1879-1882年、キャンバスに油彩、46×55cm、個人蔵) |
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