壺齋散人の美術批評 |
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赤いドレスのセザンヌ夫人 オルタンス・フィケ |
セザンヌがオルタンス・フィケと同棲を始めたのは1870年代半ばのことだが、正式に結婚したのは1886年のことだった。自分の死期の近いことをさとった父親が、孫のことを思って息子たちの結婚を許す気になったのだった。息子たちの結婚の直後、父親は死に、多額の遺産を残した。そのためセザンヌは経済的な基盤が強まった。 セザンヌは、オルタンスの肖像を数多く描いている。26点の作品が現存している。セザンヌは自画像も多く描いており、人物画を得意としていた。「赤いドレスのセザンヌ夫人(Madame Cézanne dans une robe rouge)と題したこの絵は、かれらの結婚生活のもっとも充実していた時期のもの。同じような構図の絵がほかにもいくつかある。 オルタンスは、赤いドレスに身を包み、黄色い椅子に腰かけている。椅子は壁際に置かれていて、壁の上部は青く塗られ、下部との間には深紅の帯がある。その帯が斜めになっており、見物客に緊張を強いる働きをしている。左手上部にあるものは、額縁のようにも見えるし、鏡のようにもみえる。おそらく鏡だろう。額縁なら壁に固定されているはずだが、これはそのようには見えない。 人物の描き方といい、小物の配置の仕方といい、リアリズムとは全く異なった、自由な構想を感じさせる作品である。 (1888-1890 カンバスに油彩 116.5×89.5㎝ ニューヨーク、メトロポリタン美術館) |
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