壺齋散人の 美術批評
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私と村:シャガールの恋人たち




1911年の末近くに、シャガールは「ラ・リューシュ(蜂の巣)」と呼ばれるモンパルナスの集団アトリエに引っ越した。そこで最初に描いたのが、「私と村」と題したこの絵である。このタイトルを思い付いたのは、「婚約者に捧げる」の場合と同様に、ブレーズ・サンドラールであった。

ラ・リューシュに友人たちを訪ねて来たアポリネールは、シャガールのこの絵を見てすっかり驚いてしまった。余りにも現実離れしたこの絵の美しさを、アポリネールは「シュール・レアール(超現実的)」と表現した。シュルレアリズムが運動として展開するのは1920年代以降のことだが、この言葉自体は、アポリネールによって、このシャガールの絵について、初めて発せられたのである。

題名が暗示しているように、この絵は、ヴィテブスク時代の思い出を形にしたものである。帽子をかぶった男とロバの頭が向かい合っているが、このロバはなにを意味しているのだろうか。形通りの本物のロバなのか、それとも何かの隠喩なのか。ロバの首と男の首にはそれぞれロザリオが飾られているところから見ると、このロバにはなにかしら意味がありそうである。もしかしたら、男の恋人なのかもしれない。ロバの顔には、ヤギの乳を搾る女性のイメージが浮かんでいるから、このロバはその女性が変身したものだといえなくもない。

一方、男のほうは誰なのか。というのも、円形の教会の扉から覗いている顔が、どうもシャガール本人のようなので、だとしたらこの男は誰なのか、という疑問が持ち上がるのだ。

ともあれ、男とロバは恋人同士のように見つめ合っている。二人の目線は一本の光りの線によって結ばれている。また、二人の間には円があって、二人を包み込んでもいる。この円に象徴されるような、シンボリックなフォルムがまばゆいような原色の光と戯れている。まさに、シュール・レアールというべきだ。

(1911年、キャンバスに油彩、192.1×151.4cm、ニューヨーク近代美術館)





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