壺齋散人の 美術批評
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雄鶏:シャガールの恋人たち




シャガールは動物を効果的に使った数少ない画家の一人である。それが生涯にわたったことを思えば、数少ないというよりは、唯一といってもおかしくないほどだ。それほど彼の絵と動物は切り離せない。

初期の絵には馬がよく出てくる。馬は回想の中の故郷ヴィテブスクの象徴であったようだ。ところが中期以降になると、雄鶏が頻繁に出てくる。雄鶏は故郷のシンボルと言うよりは、性的なイメージと深く結びついている。それは、恋人のイメージであったり、生殖の豊饒さの隠喩であったりする。

この絵は、雄鶏が出て来る最初期の絵の一つだ。この絵の中の雄鶏は、男性の性的イメージをあらわしている。女性が雄鶏の背中にまたがって、雄鶏の首に抱き着いているが、これは女性が男性に抱き着くイメージを隠喩的に表現したものだと解釈できる。

雄鶏はシャガール自身で、女性はベラなのだろう。フロイトの解釈によれば、女性が動物(とくに馬)の背中に跨るのは、セックスの隠喩だと言い、そんな夢を女性が見たとしたら、その女性はセックスしたがっているのだということらしいが、この絵の中のベラは、おそらくシャガールとセックスして、恍惚となっているのだと思われる。

二度目のパリ時代の最初の十年間は、シャガールにとって人生のなかで最高に幸福な時期だった。その幸福な感情が、この絵の中には充溢しているのだと思われる。

(1929年、キャンバスに油彩、81×65cm、ティッセン=ボルネミツャ・コレクション)





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