壺齋散人の 美術批評
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リラの中の恋人たち:シャガールの恋人たち




第二次パリ時代のシャガールは、恋人たちの絵を数多く描いた。「リラの中の恋人たち」と題したこの絵は、その代表的傑作といわれるものである。シャガールと妻のベラが、リラの花束の中で抱き合っている。二人の表情は幸福感に溢れている。こんな幸福なイメージを絵にすることができたのは、この時代のシャガールが公私に渡って順風満帆だったことを反映しているように思われる。

シャガールは新しい時代の芸術家のチャンピオンとして認められていたし、画家だけではなく、他の芸術分野のヒーローたちとも友情で結ばれていた。彼の作品は高い値で売れ、そのため生活は安定していた。1927年にはパリの高級住宅地であるオートゥイユに家をかまえるが、それは彼の経済状態がよいことのあらわれだった。

リラはモクセイ科の花木で、香水の原料になるほどいい香りがする。日本のモクセイとは異なり、秋ではなく晩春に花を咲かせる。花言葉には情愛に関したものが多い。だから、このように、愛し合う男女が身を横たえるに相応しい花なのである。

この絵には、シャガールにおなじみの動物のイメージが出てこない。そのかわりに、背景にはセーヌ川に浮かんだ月とそれが水に映った影が描かれている。月の色は白々としている。

(1930年、キャンバスに油彩、128×87cm、リチャード・S・ツァイスラー・コレクション)





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