壺齋散人の 美術批評 |
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アクロバット:シャガールの恋人たち |
シャガールは1926年に始めてアクロバットを題材にした絵を描いて以来、しばしばこのテーマを描いた。ペテルブルグでシャガールの師匠だったレオン・バクストがバレーやサーカスに首を突っ込んでいたので、あるいはその影響かもしれない。1930年の作品「アクロバット」は、そうした一連の作品の中で最も有名なものだ。 サーカスや大道芸人はピカソもよく描いた。ピカソの場合には、芸人の家族関係やそこにおける子どもへの眼差しが絵に強く現れている。旅の途中で呆然たる表情で立ちどまる芸人家族の一行、赤ん坊を囲んで座っている芸人夫婦、そしてボールで演技の練習をしている少女の姿といった具合だ。そこには、人生に対するピカソなりの視点がある。 これに対してシャガールの場合には、アクロバットの身体リズムを純粋に楽しんでいる風情がある。身体の醸し出すリズムをなるべく画面で表現したい。できればそれにシャガール独特のテーマをからませて、幻想的な雰囲気も醸し出したい。そんな意欲が伝わってくる。 画面いっぱいに描かれた女性は、妻のベラだと思われる。その彼女の顔に顔を重ねるようにしている男性はシャガール自身なのだろう。女性の背後に展開している風景はヴィテブスクの町なのかもしれない。その町の広場の真ん中で、女性は長い棒を尻にあて、空中に浮かんでいるようにも見える。 サーカスの躍動感とシャガール流の幻想趣味が溶けあった傑作だといえよう。 (1930年、キャンバスに油彩、65×32cm、パリ、ポンピドゥー・センター) |
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