壺齋散人の 美術批評
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三本の蝋燭:シャガールの恋人たち




1940年の春、シャガール一家は南仏プロヴァンスのゴルドに引っ越した。パリよりも安全だと思われたからだ。ここでシャガールは「三本の蝋燭」と題した絵を完成するが、これには2年を要した。

一見して伝わってくるように、この絵の中には不安が描かれている。抱き合った男女の表情にそうした不安が感じられるし、彼らが見つめている三本の蝋燭は死の象徴なのだ。

周囲には、シャガールの絵におなじみの様々な形象が散りばめられているが、それらにも不安の影が差していると言えなくもない。中間的な度合の寒色と暖色を衝突させているような色彩配置にもメランコリーの要素が感じとれる。

こんなわけでこの絵は、迫りくるナチスドイツの影におびえるシャガールの心の中を垣間見せてくれる作品だということができる。

ともあれ、シャガールはゴルドに長く安住することはできなかった。ナチスの手は南仏にまで伸びてきて、シャガールはあやうく捕まりそうにもなった。しかし、アメリカの介入を得て窮地を脱し、1941年5月7日にフランスをたち、亡命先のアメリカに向かった。

(1940年、キャンバスに油彩、127.5×96.5cm、個人蔵)





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