壺齋散人の 美術批評
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雄鶏のときの声を聞く:シャガールの恋人たち




アメリカに亡命したシャガールは、ニューヨークを主な活動拠点にした。そこには、ヨーロッパからの亡命芸術家を迎える団体「自由の女神」があって、なにかとシャガールを支えてくれたからだ。シャガールは、幸運なことに、それまでに描いた絵や描きかけの作品をほとんどすべてアメリカに持ってくることに成功していた。それで、アメリカ滞在時期の活動は、未完成の絵に手を入れることから始まった。

そんなわけで、この時期の絵には、アメリカに居ながらにして、アメリカの影が殆ど感じられない。それには、別の理由もあった。アメリカに来たシャガールは、現地のアメリカ人とよりも、ヨーロッパから亡命してきた人々、特にユダヤ人とたち主に交際した。それゆえ、ニューヨークの大新聞は、シャガールの個展を徹底的に無視したほどである。

こんな背景があったからか、この時期の絵には、再びヴィテブスクのユダヤ人街をイメージさせるような絵が目立つようになる。

「雄鶏のときの声を聞く」と題するこの絵もそんな一枚だ。シャガールおなじみのテーマである牝牛や雄鶏、三日月やバイオリン弾きが描かれている。雄鶏の腹の中には卵が入っているが、これは何を意味するのか。また、バイオリン弾きは雄鶏の羽の中にめり込んでしまっており、ボディと弓がちらりとのぞいているだけだ。

牝牛の頭には、男女の顔がくっついているが、これがシャガールとベラであることはいうまでもない。

これまでの絵に比べて、色彩の扱い方が一層大胆になっているのがわかる。

(1944年、キャンバスに油彩、92.5×74.5cm、ミラー・コレクション)





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