壺齋散人の 美術批評 |
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華燭:シャガールの恋人たち |
1944年の夏の終わり、シャガール夫妻がアディロンダック山中の別荘で静養している間に、最愛の妻ベラが感染症で急逝した。パリが解放されたという情報に接し、二人でフランスに戻ることを夢見ていた矢先のことだった。ベラの死はシャガールを打ちのめした。ベラがいない毎日は、シャガールには耐えられなかったのだ。絵を描く気にもなれず、9か月にもわたり創作は中断された。 打撃からやっと立ちなおったシャガールが最初に取り組んだのは、ベラの思い出に捧げたものだった。ベラは、二篇の自伝的な文章、「ともしび」と「出会い」を書いていたが、シャガールはこの二つの文章に捧げるような形で二枚の絵を描いたのだ。だが、その描き方にはユニークなところがあった。「アルルカン」と題した旧作の巨大な画面を二つに切断し、それを下敷きにして描きなおしたのである。 その二枚のうちの一枚が、「華燭」と題したこの絵である。これは「ともしび」をイメージして描かれたものだが、中心的なテーマはシャガールとベラの結婚である。だが、結婚式を彩る「華燭」がテーマであるわりには、全体的に明るい雰囲気は伝わってこない。むしろメランコリックな雰囲気に包まれた絵だと言ってもよい。 ともしびに照らされたシャガールとベラの姿は薄靄に包まれているようであるし、左側の画面は陰鬱なブルーが支配している。 (1945年、キャンバスに油彩、123×120cm、チューリッヒ美術館) |
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