壺齋散人の 美術批評
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音楽会:シャガールの恋人たち




シャガールの創作意欲は晩年になっても衰えなかった。70歳を過ぎてもまだ現役ぱりぱりといった創作ぶりを発揮し、97歳で死ぬ間際まで絵筆をとり続けた。シャガールの絵は、世界中から高い評価を受け、ピカソと並んで、20世紀を代表する巨匠といわれるようになった。しかしシャガールは、そんな名声に溺れることなく、あいかわらず新人のような姿勢で自分の絵を描き続けた。しかし、画風は次第に変わっていった。

テーマから言えば、ユダヤ的なものへのこだわりが弱まり、キリスト教的な文化に妥協するような姿勢が強まった。また、色彩的には、燃えるような暖色主体のものから、青のような寒色を大胆に取り入れるようになっていった。

「音楽会」と題されたこの絵は、シャガールが70歳の時の作品だ。全体の基調となる青の濃淡で、海と空をあらわし、その中心に恋人たちを乗せた船が浮いている。この小さな船は、海から空へと舞いあがろうとしているようである。そして、恋人たちを囲んで、さまざまな人間の集団が画面いっぱいに散らばり、それぞれ楽器を使って音楽を奏でている。

右手にはクラリネットを吹く若い男、中程の上の方にはヴィオラを持った鳥、その左にはヴァイオリンを弾く男とその仲間のオーケストラ、そして左手には太鼓を先頭にした鼓笛隊。船の下では、恋人たちが抱き合ったまま海に浮かんでいる。彼らもうっとりとして音楽会の音を聞いているようだ。

右手のクラリネットを吹く男の足もとには、エッフェル塔やノートルダムなどが見えるが、ヴィテブスクを思わせるような町は出てこない。

(1957年、キャンバスに油彩、140×239.5cm、ニューヨーク、シャープ・コレクション)





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