壺齋散人の 美術批評 |
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雅歌(第四章):シャガールの恋人たち |
70歳になったシャガールは、亡き妻ベラとの思い出に捧げて、一連の大作を描いた。「雅歌」と総称される五枚の絵である。雅歌とは、旧約聖書の一部で、ソロモンとその愛人「シャロンのバラ」ことシュラムとの愛のやり取りを歌ったものである。シャガールは自分自身をソロモンに、ベラをシュラムに譬えて、二人の永遠の愛の形を、この絵に込めたのだと思われるのだ。 このシリーズでは、どの絵も赤を基調とした暖色で統一されている。また、いづれの絵にも、空を飛ぶ男女の姿が描かれている。シャガールは、若い頃にベラを描いた時には、いつも二人を飛んでいる姿で描いていたので、それをここでも踏襲したのだろう。 これは、雅歌の第四章に対応する絵だという。この章は、ソロモンが乙女を称える部分だが、この絵は、必ずしもテクストを忠実に再現しているわけではない。二人が空を飛んでいることは、テクストでは予想されていないし、また地上で人々が集まっているところもテクストにはない。この人々は、おそらく「過ぎ越しの祭」を祝っているのだと解釈されている。 羽根の生えた馬はペガサスだろう。その背中に二人の男女が乗っている。女は花嫁姿だ。その女に向かって、男が何やら語りかけているが、その言葉の内容は、雅歌第四章にある言葉と同じものなのだろう。その一部分を、引用しておこう。 「わが妹、わが花嫁よ、あなたはわたしの心を奪った。 あなたはただひと目で、あなたの首飾のひと玉で、わたしの心を奪った。 わが妹、わが花嫁よ、あなたの愛は、なんと麗しいことであろう。 あなたの愛はぶどう酒よりも、あなたの香油のかおりはすべての香料よりも、 いかにすぐれていることであろう。 わが花嫁よ、あなたのくちびるは甘露をしたたらせ、 あなたの舌の下には、蜜と乳とがある。 あなたの衣のかおりはレバノンのかおりのようだ」(口語訳聖書) |
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