壺齋散人の 美術批評
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受胎告知:エル・グレコの幻想




1596年から1600年にかけて、エル・グレコは、マドリードのドニャ・マリア・デ・アラゴン学院付属聖堂祭壇画の注文を受けたが、それに際してメインとなる絵の縮小画を作って提示した。これは、本物の三分の一の大きさで、しかも習作としての位置づけなのだが、後期のエル・グレコの画風の始まりを告げる傑作と言う評価が高い。

テーマは受胎告知である。処女マリアの前に大天使ガブリエルが現れ、受胎したことを告知している、マリアは、両手を広げる仕草をして、神への恭順を表現する。それに対してガブリエルの方は両手を胸にあてて、マリアへの崇拝を表現する。すなわちこの絵では、マリアは既に聖母としての位置付けになっているわけだ。

上部では、大勢の天使たちが雲の上で楽器を演奏し、マリアの聖なる受胎を祝福している。その分厚い雲の合間から白いハトが飛び出てきて、黄金の光を放射し、画面を明るく照らし出している。

この絵には、マリアが寄りかかっていた祈祷台の外には、現実のものはほとんどない。すべてが幻想の産物であるかのように、現実感を超越している。赤、青、グリーンといった原色の強烈なコントラストも、現実を超越させる効果をもたらしている。まさに、エル・グレコの幻想的な画風が、この絵において確立されたといってもよい。

なお、ドニャ・マリア・デ・アラゴン学院は19世紀初頭に廃止され、聖堂の祭壇画も分解されてしまった。そのため、この祭壇衝立の構成がどのようなものだったかについて、わからないことが多く、定説となるようなものがない。四つからなっていたとするものや、六つからなっていたとするものやらが併存している状況である。

なおこの祭壇画のメインと言うべき、受胎告知の絵の完成形のほうは、現在プラド美術館に保存されている。上の絵は、縮小版のほうである。

(1600年、キャンバスに油彩、114×67cm、マドリード、ティッセン・ボルネミッサ美術館)





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