壺齋散人の 美術批評
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オリーヴ山のキリスト:エル・グレコの幻想




「オリーヴ山のキリスト」と題されたこの絵は、以前紹介した「菜園の苦悩」のテーマを縦長に描いたものである。「菜園の苦悩」では、キリストの傍らの草むらで小さく横たわって描かれている三人の使徒たちを、手前の広々とした空間に大きく描いている。その分、キリストと天使の姿は、相対的に小さくなっている。一方、ユダが兵士たちにキリストを売り渡すところは、前作同様、画面右側の後景として小さく描かれている。

四つの福音書はいずれも、キリストと三人の弟子たちとのやり取り、及びキリストが父なる神に最後の祈りをささげるところを描いているが、天使に言及しているのはルカ伝だけである。画家としては、天使の存在は絵を構成する重要な要素となりうるので、エル・グレコもこのような形で取り入れたのだと思う。

白い月の光が夜を幻想的な雰囲気に染め上げているところ、三角形に尖った形の山がキリストの背後に光背のように覆っているところなどは、前作と共通している。三人の使徒たちのポーズが、非常に不自然に見えるのには、彼らの姿が大きくされていることとかかわっていると思われる。キリストの表情がやや弛緩してみえるのを含め、全体として前作よりも緊張感が欠けるといえるのではないか。

(1605年頃、キャンバスに油彩、138×92cm、リール美術館)





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