壺齋散人の 美術批評 |
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ラオコーン:エル・グレコの幻想 |
「ラオコーン」は、ギリシャ人であるエル・グレコが、ギリシャ神話に題材をとった唯一の作品である。この神話を題材にした彫刻が1世紀後半に作られたが、それが16世紀初頭に出土してローマのヴァチカン内に置かれていた。エル・グレコはその彫刻をもとにして、この絵を作ったのだと考えられている。 彫刻は、ラオコーンと二人の息子たちがヘビにまかれて苦しんでいる様子を表現している。エル・グレコの絵では、この父子がヘビにまかれてのた打ち回るところを、アポロとディアナが見下ろしている。ラオコーン父子は神を冒涜した罪で、神罰を受けたのである。 エル・グレコは、ラオコーンの寓話を、反宗教改革のメッセージとしても利用したと考えられる。神を恐れぬ者にどういう運命が待っているか、視覚的なイメージとして表現したというわけである。 背景には、陰惨な色合いの空の下に、トレドの街が広がっている。トレドの街はエル・グレコにとっては宗教都市のシンボルであったから、ギリシャ神話の背景としても不自然ではなかったのだ。 なお、右端のディアナの姿には、二つの頭がついている。これは、原画を洗った時に、先に描いたほうの頭が露出してしまったのである。 (1614年頃、キャンバスに油彩、142×193cm、ワシントン、ナショナル・ギャラリー) |
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