壺齋散人の 美術批評
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呼び声:ゴーギャン、タヒチの夢





タヒチでの自殺騒ぎと、その副産物として「我々はどこから来たか・・」を制作して以後、ゴーギャンの絵は思弁的な雰囲気をたたえるようになったのだったが、その傾向はヒヴォアに移って以降、ますます強くなっていった。彼の最後の作品群には、非常に精神的な要素を感じさせるものがある。

「呼び声」と呼ばれるこの絵もそうした一枚だ。これは森の中で二人並んでたたずんでいる人たちや、背中をこちらに向けてうずくまっている人を描いているのだが、これらの人々は、ただそこに存在しているといっただけではなく、見るものに向かってなんらかのメッセージを発しているようにも見える。「呼び声」というからには、何かの呼び声に彼らが耳を傾けているのか、あるいは彼らが我々に向かって呼び声をかけているのか。

ともあれこの絵をずっと眺めていると、絵の中の人々や自然との間で、我々自身が語り合っているような錯覚に見舞われる。

色彩はかなり強烈だ。手前の大地を赤く塗り、背景の草原をグリーンに塗ることで、画面を上下に分割するかたちで、補色同士のコントラストを演出している。その間に挟まれた白い部分は小川の水の流れだろう。白は、右手の女性の腰巻や手前の草花にも有効に使われていて、画面に動きをもたらしている。



これは、人物の部分を拡大したもの。中央の女性が意味ありげな表情でこちら側を見ている。その右手の女性は、手を延ばして何かに合図をしているように見える。背中を向けてうずくまっている女性が何をしているのか、画面からはよく見えない。(1892年 カンヴァスに油彩 130×90cm クリーヴランド美術館)





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