壺齋散人の 美術批評
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ヒヴォアの魔法使い(Le Sorcier d'Hiva Oa)
:ゴーギャン、タヒチの夢





マルキーズ諸島では、魔法使いあるいは呪術師の社会的な地位が高かった。彼らは神話の神々を呼び出したりするほか、病気の治療も行った。「団扇を持つ女」のモデルであるタホタウアは、そうした呪術師の妻だった。「ヒヴォアの魔法使い」と題したこの絵の中の魔法使いとは、もしかしたらタホタウアの夫かもしれない。

森の中で、赤いマントを羽織った魔法使いバブアニが、右手を木の幹に触れながら、こちらを見つめて立っている。マントの下の彼の衣装は、ヨーロッパ風であるが、髪飾りはいかにもポリネシア風だ。彼の表情はあまりけわしくなく、また魔法使いらしくも見えない。ポリネシアの魔法使いは、ヨーロッパの悪魔とは違って、人々の恐怖をそそらないようだ。病気の治療をあわせておこなうところに、彼らの民衆との強いつながりが伺える。

魔法使いの背後にいる二人の女性は、「呼び声」の中の二人の女性のイメージを借用したものだ。たまたま都合のうえからそうしたのか、あるいはこの二つの作品に独自のつながりを認めたのか、その辺はわからない。

魔法使いの足元にいる狐と野鳥は、マルキーズ島の神話に出てくるものと言われる。ゴーギャンはこの絵を通じて、ポリネシアの精神世界を再現したつもりなのかもしれない。



これは、人物の部分を拡大したもの。二人の女性の描き方は、「呼び声」のそれとほとんど同じである。(1892年 カンヴァスに油彩 92×73cm リエージュ美術館)





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