壺齋散人の 美術批評
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仕事に出かける画家:ゴッホの自画像17




ゴッホは1888年2月に南仏のアルルに移った。このアルルの灼熱の太陽がゴッホに強烈な作用を及ぼし、一連の燃え輝くような絵を描かせたことについては、説明の必要もないだろう。その燃え輝くような色彩感覚は自画像にも当然現れている。

「仕事に出かける画家(Painter on his way to work)」と題するこの絵は、そうした強烈な色彩感覚を感じさせる自画像である。アルルに来た年の夏、ゴッホはアルル北方のタラスコンまでスケッチに出かけた。その折の自分自身のイメージを描いたのがこの作品なのである。

一目してわかるように、画面には強烈な原色が溢れている。黄色い麦畑を背景にして、やはり黄色くぬられた道をゆく画家はゴッホその人の姿である。ゴッホの足もとにはゴッホ自身の影が黒々と描かれているが、やはりその近辺にあるはずの木々の影は描かれていない。ゴッホにとっては正確さが問題なのではなく、絵の勢いが問題だったのだ。

もうひとつの特徴として、この絵には輪郭線が強調されている。ゴッホ以前の画家にとっては輪郭線を描くことはタブーに近いことだった。輪郭は色彩の明暗差によって自ずから浮び出るように描くのがエチケットだったのだ。ところがゴッホはそのエチケットをあざ笑うかのように、明確な輪郭線を加えた。やがてピカソをはじめとした現代画家も追従することとなるこの技法は、ゴッホが日本の浮世絵から学んだものだ。

なおこの絵の現物はドイツ、マグデブルグのカイザー・フリードリッヒ美術館に保管されていたが、第二次世界大戦の戦火のために失われてしまった。

(1888年7月、キャンバスに油彩、48.0×44.0cm)





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