壺齋散人の 美術批評
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二人の老人:ゴヤの黒い絵




「二人の老人」と題されたこの絵(144×66cm)は、「レウカディア」と対をなすように、つんぼの家一階食堂入り口を入った右手の壁に描かれていた。長い杖を両手で持った老人が修道士のような姿をして立っている。その脇には。醜怪な面相の老人が寄り添うようにして立ち、隣の老人の耳に向って、何事か叫んでいるようである。その図柄を、左手の老人がゴヤ自身で、右手の老人は死神だと解釈するむきもある。たしかに、左手の老人は、耳元で大声を出されても聞こえないように見えるので、ゴヤ自身だと解釈するのも無理はない。だが、実際のゴヤは、この絵の中の老人のような白いひげは生やしていなかった。

いずれにしても、この絵は死を寓意していると考えることができる。右手の老人は、巨大で先のとがった耳を持っているが、このような耳は、悪魔である証拠である。その悪魔が、左手の老人の肩に手をかけながら、なにか大声で叫んでいる。この老人の耳が聞こえないことをわかっているので、耳ではなく全身で聞こえるように仕向けているのだろう。悪魔が聞えさせたいと思っているのは、老人に死が近づいたということなのだろう。

これは考え過ぎの解釈だという人がいれば、この絵が「レウカディア」と対をなしている意味をよく考えたらよい。「レウカディア」の中のゴヤ自身は既に墓の中に入っている。この絵の中のゴヤが、墓に入る準備をしていると解釈するのは、自然な推論と言うべきだろう。





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