壺齋散人の 美術批評
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決闘:ゴヤの黒い絵




聾の家二階サロンの入り口から向かって左手の壁の、窓を隔てた奥側に描かれていたのが「決闘」と題する長大な絵(123×266cm)である。麦畑と思われる広大な大地の上で、巨大な図体の二人の男が棍棒を振りかざしながら、殴りあっている図柄である。この男たちが巨人であることは、背景との比較から、ほぼ間違いない。

この二人の巨人が誰であるかについては、色々な臆説が流れてきた。いちばんもっともらしいのは、聖書に出てくるカインとアベルだとするものである。カインとアベルは、アダムとイブとの間に生まれた兄弟で、巨人ではないが、二人の間で起こった兄弟殺しと言う罪は、巨大な(巨人が犯すに相応しい)罪というべきであろう。

この解釈に基づけば、ゴヤはカインとアベルの争いに事寄せて、当時のスペインの内戦を皮肉ったのだということになる。左手の髭を生やした男がカインで、右手の勢いのいい若者がアベルということになるが、カインは王党派、アベルは反王党派の民衆だと解釈できる。

この絵の中では、左の男は額から血を流しており、右の若者はその男に向かって棍棒を振り下ろそうとしている。その棍棒が、左の男を打ちのめすであろうことは、十分に予想できる。

つまりゴヤは、この絵で、反王党派の民衆が勝利するだろうことを、比喩的な形で描いたのだと、解釈できないでもない。現実の歴史としては、王党派が勝利して、フェルナンド七世が権力を取り戻すのであるが。





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