壺齋散人の 美術批評 |
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書類を読む男たち:ゴヤの黒い絵 |
聾の家二階サロンの入り口向かい側の壁左手に描かれていたのが、とりあえず「書類を読む男たち」としたこの絵(126×68cm)である。ゴヤの遺産相続目録を作ったブルガーダによって「二人の男」と名づけられ、後イリアルトによって「政治家たち」と名づけなおされた。ブルガーダがなぜ「二人の男」としたかについては、わからないことが多い。というのも、この絵には六人の男が描かれているからである。イリアルトが、「政治家たち」としたことには、一定の辻褄がつけられる。 イリアルトの考えを前提にすれば、この絵の中の男たちは、王党派の政治家たちであり、彼らは新聞記事を読みながら、何やら陰謀を企んでいる、ということになる。画面左手前の男が新聞記事を朗読し、他の男たちがそれを聞いている。この新聞記事の情報をもとにして、陰謀を企んでいるというわけである。 こう言われてみると、新聞記事を読んでいる、鉤鼻で長いひげを生やした男は、黒い服からして僧侶を連想させるし、手前中央の白い衣装を着た男は貴族的な雰囲気を湛えているし、その右手の男は剣士のようないでたちをしている。僧侶、貴族、剣士といった組み合わせは、王党派をイメージさせるから、この絵の中の男たちは、王党派の復権に向けて陰謀を企んでいるということになる。 黒い絵を手掛けていた頃、スペインは重大な政治的事件に遭遇していた。国王フェルナンド七世の失権と復権といった事態が、短い間隔をおいてスペインを見舞ったのだ。ゴヤ自身は、自由主義者たちに同情を抱いていたらしいのだが、そのために、フェルナンド七世の復権と王党派の跋扈に対しては、身の危険を感じる立場にあった。この絵は、そうしたゴヤの不安を描いたものではないかとも受け取れるのである。 王党派の復権が確かなものになると、ゴヤは聾の家を孫のマリアーノにゆずり、自分自身はフランスへの事実上の亡命を考えるようになる。 |
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