壺齋散人の 美術批評
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二人の女と一人の男:ゴヤの黒い絵




聾の家二階サロンの入口を入って正面右側の壁に描かれていたのが、「二人の女と一人の男」と題されたこの絵(125×66cm)である。現存する絵を見た限りでは伝わってこないが、この絵は実に不道徳な絵なのである。画面では、男の右手が、黒い布の下に隠れて見えないが、レントゲン写真からわかったことは、もともとこの男の手は、自分のペニスをつまんでいたのである。つまり、この絵は、マスターベーションに耽る男と、それを見てあざけりの表情をうかべる女たちを描いていたのである。

こんな不道徳な絵を描いたのは、もともと人に見せることを予想していなかったからだと思われる。だが、この絵がキャンバスに移され、マドリードの美術館に展示されるに至って、不道徳な部分を黒く塗りつぶしてしまったのだろう。

だが、ゴヤがこんな場面を描こうと思った本当の動機はなにか、それはよくわかっていない。ゴヤには、初期の版画の下絵に、同様の不道徳な図柄を描いたものがあるということが、研究者によって明らかにされているから、若い頃から、こうした事柄に興味があったのだと思われる。彼は、性病に罹ったらしいことからしても、あちらの方面の欲望がかなり強かったらしいのである。

ともあれ、画面の中の男は、射精に伴う絶頂感で、うっとりとした表情をしている。男の背後にいる女は、その様子を見て悪魔的な笑いをうかべているが、これは嘲笑の表情だと思われる。その左手前にいる人物は、男とも女とも区別がつかないが、ブルガーダはこの絵を「二人の女」としており、イリアルトも「嘲笑する二人の女」としていることから、古くから、これも女と認識されていたわけである。プラド美術館もそれを踏襲して、この絵を「二人の女と一人の男」としている。





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