壺齋散人の 美術批評
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犬:ゴヤの黒い絵




聾の家二階サロンの入口を入ってすぐ右手前の壁に描かれていたのが「犬」と題されたこの絵(134×80cm)である。この部屋を時計回りに巡回して歩くと、最後に現れる絵である。そんなこともあって、この絵にはゴヤの最後(つまり死)を思わせるようなところがある。

縦長の画面の一番下の部分に、砂丘を思わせるような黄土色の傾斜した塊が描かれ、そこから一匹の犬が顔を出している。そのほかの空間は、鈍い黄色に塗りつぶされて、何も描かれていない。あるいは、もともとは描かれていたものが、その後になって塗りつぶされたのかもしれない。

頭だけを見せた犬の表情は、何かに怯えているようにも見えるが、もしそうだとして何に怯えているのかは、画面からは全く分からない。この犬が何をイメージしているかについては、様々な解釈がなされてきたが、その中でもっとも興味を掻き立てられるのは、この犬をゴヤ自身のイメージだと解釈するものである。

というのもゴヤは、貴婦人の肖像画を描く時に、彼女らのペットの犬をはべらせることを好んだが、その犬がゴヤ自身の分身だとする解釈が有力だからである。ゴヤは、自分自身が犬になって貴婦人におべっかを使うことで、彼女らの機嫌を取っていたというのだ。

しかし、この絵の中の犬は、人の機嫌を取っているようには見えない。この犬が怯えた表情をしているのは、自分の死を予感しているようにも見える。つまりゴヤは、この犬を通じて、死期の近い自分の運命を嘆いて見せているのではないか。そういうように解釈できないでもない。





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