壺齋散人の 美術批評
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愛と死:ゴヤの版画



(愛と死)

この作品が何故「愛と死」と題されたのか。愛する男を失った女の悲しみを描いたのだと解釈すれば、何となくわからぬでもない。男は、恐らく決闘に敗れて死に、その遺体を女が抱きかかえている、そんなふうに見えないでもない。

注釈書には、「不倫の愛からは騒音と係争しか生まれない」とある。ということは、この絵は不倫の愛ではなく、本物の愛を描いたということなのか、それとも、不倫の愛がもとになって決闘騒ぎに発展したということなのか。どうにでも解釈出来そうである。

男の表情をよく見ると、まだ死んではいないようにも見える。女に抱きかかえられて、全身の体重を彼女に預けているようである。女のほうは、両腕でしっかりと男を抱きかかえ、男の顏に自分の顏を重ねるようにしている。彼女の表情は悲しそうに見える。やはり、男の不幸を自分の不幸として悲しんでいるようである。


(歯を盗む)

これは首を吊るされてぶら下がった男の死体から歯を盗んでいる女を描いたものだ。当時のスペインでは、絞首刑になった男の歯は、妖術に効果を発揮するという迷信があったという。そうだとすればこの絵は、妖術用の歯を盗んでいるところを描いていることになるが、それにしては盗んでいる女の腰が引けている。

妖術用の歯を盗むわけだから、この女は自分が妖術使いの魔女であるか、あるいは魔女を相手に商売をしているということになる。どちらにしたって、腹が太くなければできない商売である。ところがこの女は、腰が引けているばかりか、顔を後ろにのけぞらせ、その上ハンカチまでかぶせている。

吊るされた男は、顔を下にしてうなだれているが、これは実際にそのとおりだったのだろう。頭は非常に重いから、首の支えが亡くなると、前後どちらかに傾くはずだ。この男の場合には、前の方に傾いたまま、うつむきの状態になったわけだ。





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