壺齋散人の 美術批評
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勇敢な女性たち:ゴヤの版画



(やはり野獣だ)

スペインの対ナポレオン戦争には、女性たちも大勢参加したといわれる。スペイン側の兵力は民兵が中心で、その戦いぶりは、正規戦というよりは、ゲリラ戦のごときものだったから、そのゲリラ戦に、男たちに混じって多くの女も加わったわけだ。ゴヤは、版画集「戦争の惨禍」の最初の部分で、そんな女たちの勇敢な戦いぶりを描いた。

これは、フランス兵に向かって勇敢に戦いを挑む女たちの姿だ。手前の女は、腰に小さな子どもを抱え、右手で持った槍をフランス兵に突き刺している。背後の女たちも、あるいは石を持ち上げてフランス兵に投げようとしていたり、短剣でフランス兵を突いたりしている。その戦いぶりには脱帽せざるをえない。

女たちがゲリラ戦に加わったのは、戦力としてより、男たちを奮い立たせるのが主な目的だったといわれる。その目的を果たすためなら、戦場で男たちに付き添い、あるいは彼らの闘志をはげまし、あるいは傷ついた者を介抱するだけで十分だったろう。だが、ゴヤはそんな姿にとどまらず、このように粗末な武器を持って、フランス兵と対等に戦っている女たちを、満腔の敬愛をこめて描いたのだと思う。


(嫌なのだ)

これはフランス兵ともみ合っているスペイン女性を描いたものだ。いくら気丈夫なスペイン女といえども、一対一で男と組み合ったら、勝ち目はないだろう。男は単に女を倒すばかりではなく、できれば性的な快楽の対象にしたいと考えているようだ。女を正面から組み伏せ、右手を女の尻に回しているところから、男の野望を読み取ることができよう。

その男の背後に老女が回りこんで、短剣を振り上げている。男の油断をついて、刺し殺してやるつもりなのだろう。

若い女の闘志といい、老女の振る舞いといい、スペイン女たちの意気込みが伝わってくる作品である。





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