壺齋散人の 美術批評
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敗者を略奪:ゴヤの版画



(彼らはここまでむしり取る)

ゴヤの時代には、戦いに勝ったものが負けたものから略奪するのは当然のことだった。負けた当事者が、都市や村の住民だった場合には、都市ごと、また村ごと略奪にあった。財産が奪われるのは無論、生き残った男は殺され、女は強姦された。この時代の戦いは、そういう面で非常に人間的なスケールだったわけだ。なにもかもが可視的なだけに、その残虐性は目を覆うほどである一方、人間的なスケールをはみ出すことはなかったわけだ。

この絵はおそらく小規模な戦闘の行末を描いたものだろう。戦闘に負けたほうはことごとく殺され、彼らの死体が累々と横たわっている。勝ったほうは、勝利の当然の報酬として、負けたほうから身ぐるみ剥いでゆく。

ちょっと見ただけでは、略奪しているのが何者なのかはよくわからない。服装からしてフランス兵ではないらしい。もしかしたら、スペイン人同士が戦った可能性もある。いずれにせよ、勝った方がガツガツと襲い掛かる一方、負けたほうの死者は彼らのなすがままにまかせている。死んでしまっているのだからどうにもしようがないのだが。

これらの死者の表情に、キリストの受難を重い重ねる解釈もある。


(葬って後は口を噤め)

これは、上の絵に続く光景かと思わせる。負けたものの死体が、身ぐるみはがれて、真っ裸のまま放置されている。彼らは墓に葬られるまでもなく、このまま禿鷹やカラスの餌食になるのだろう。

これらの死体の山を前にして、一組の男女が口元を抑えながら立ちすくんでいる。あまりの悲惨さに声が出ないのか、あるいはすさまじい死臭に辟易しているのか。

題名に「口を噤め」とあるのはどういう意味か。





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