壺齋散人の 美術批評
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処刑:ゴヤの版画



(なぜだろう?)

版画集「戦争の惨禍」には、処刑を描いたものが多数ある。そのほとんどは、フランス兵によるスペイン人の処刑だ。どれを見ても、残虐きわまる。こんな絵ばかり見せられたら、戦争が心から嫌になるか、あるいは反対に、人間の残虐性に対して鈍感になるか、どちらかだろう。

これはスペイン人と思われる男を、フランス兵が絞首刑にしている場面だ。首を吊るすのに適当な高さの支柱がなかったのか。吊るすというより、人間をロープにまいたまま引っ張っている。この引っ張りのエネルギーを用いて、吊るすのと同じような効果を挙げようというのか。だが、この絵を見る限り、吊るすというよりは、絞めるというほうがふさわしいようだ。つまりこの男は、きわめて大げさな方法によって、首を絞められているとも言える。

二人のフランス兵が男の前に立って両足を引っ張る一方、もう一人の男が背後にまわって男の背中を足で押している。前後から引っ張りのエネルギーを受けた男は、表情をゆがませながら苦痛に耐えている。なにか叫んでいるように見えるのは、「早く殺してくれ」と言っているようにも見える。


(さらに何をすべきか?)

これはこの版画集の中でももっとも残虐な一枚だ。フランス兵たちが寄ってたかってスペイン人を切り刻んでいる。このスペイン人は、なぜこんな目にあわねばならなかったのだろう。

題名「さらに何をすべきか?」から推測されるように、このスペイン人は、通常の方法での処刑ではすまされないと、フランス兵によって思われたのであろう。それ故、考えられる限り最も陰惨な刑に処すべきである、と。そのためには、「さらに何をすべきか?」というわけなのだろう。

裸にされたスペイン人は、両脚を抱えあげられて、股を大刀で切り刻まれている。男の表情に苦痛が見えないところから、すでに死んでいるものと思われる。すでに死んでしまってなお、このような屈辱を蒙るのであるから、このスペイン人は、フランス兵相手に勇敢に戦い、多大な損害を出させたのかもしれない。



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