壺齋散人の 美術批評
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スペインの未来:ゴヤの版画



(真理は死んだ)

これも、フェルナンド七世による王政復古の一断面を描いたものだとされる。手前中央に横たわっている女性は真理のシンボルである。その真理は、ゴヤにとっては、民主主義的な理念を意味した。それが死んだということは、スペインは民主主義を葬って野蛮な王政の手にゆだねられてしまったということをあらわしている。

真理の遺体の周りには大勢の人間たちが集まっている。彼らはみな王党派であろう。修道僧の合図にあわせて、数人の者が真理を埋葬しようとしている。彼らの顔はみな邪悪に見える。

そんな邪悪な集団の中でただひとり、真理の死を嘆き悲しんでいるものがいる。画面右手前の若い女性だ。彼女は秤を持っていることから、恐らく正義の女神なのだろう。秤は伝統的に正義のシンボルだった。


(これが真実だ)

版画集「戦争の惨禍」の最後に来るのは、「これが真実だ」と題するこの絵である。この絵は若い女性と農夫らしき者を描いているが、若い女性のほうは、後光がさしていることからして、真理の女神だと思われる。その女神が立ち上がって農夫と話を交わしている。スペインの明るい未来について語り合っているのだろう。

この絵を最後に持ってくることでゴヤは、スペインの明るい未来を予見しようとしたのかもしれない。しかし現実はそうはならなかった。フェルナンド七世による反動的な政治は強固さを保ち続け、民主派はことごとく弾圧の憂き目に会った。

ゴヤ自身も、弾圧を恐れて、この版画集の公刊をあきらめたばかりか、ついにはフランスに亡命しなければならぬ羽目に陥ったのである。





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