壺齋散人の 美術批評
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モーロ人と闘牛:ゴヤの版画



(昔のスペイン人が馬に乗って野原で牡牛を狩りする方法)

版画集「闘牛技」の最初の数枚は、モラティンの著作「スペインにおける闘牛の起源と発展に関する歴史的解説」を踏まえている。モラティンによれば、スペインで闘牛をスポーツとして始めたのはモーロ人、つまりイスラム教徒だった。モーロ人たちは、馬に乗って牡牛を狩りとり、競技用にしていたということらしい。

版画集の最初に位置するこの絵は、昔のスペイン人が、馬に乗って牡牛を狩りする場面を描いている。昔のスペイン人とわざわざことわっているのであるから、彼らがモーロ人だったことがわかる。

馬に乗った男が、皮の衣装をつけた野生的ないでたちで、棒を操りながら牛を狩り立てている。牛を傷つけてはいけないので、慎重な動作を心がけているように見える。馬上の男が棒で牛を制御した後、彼の従者と見られるまわりの男たちが、牛を絡めとるのであろう。


(広場でアラビアン・マントを使ってカペーオをするモーロ人)

これは、モーロ人による初期の闘牛の光景を描いたもの。モーロ人たちの、アラビアン・マントを用いた合羽さばきのことをカペーオといった。この絵のモーロ人は、牛に背中を見せながら、モラビアン・マントでカペーオを行っている。このように牛にわざと背中を見せるのは、モーロ人の闘牛の特徴だったようだ。

モラティンによれば、初期の闘牛は基本的には馬に乗って行われた。闘牛士がこのように地上に下り立ち、徒歩で牛に向かうのは、何らかの事故があった場合である。いわば例外的な戦い方だったわけである。

闘牛士が牛に背中を見せているのは、いつでも一目散で逃げることを勘定に入れているのかもしれない。





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