壺齋散人の 美術批評
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闘牛する英雄たち:ゴヤの版画



(カルロス五世バリャドリード闘牛場で槍で牡牛を突く)

スペインでは、闘牛は職業的な闘牛士のみではなく、騎士たちによっても行われた。モラティンの前述の書は、そうした騎士たちや英雄による闘牛について記している。ゴヤは、そうした記述に依拠しながら、何点かの図柄を製作した。

これは、そのうちの一点。カルロス五世の闘牛振りを描いたもの。カルロス五世は、16世紀前半の神聖ローマ皇帝であり、スペイン王をも兼ねていた。スペイン王としては、カルロス一世と呼ばれている。そのカルロスが、バリャドリードの闘牛場で、皇太子フェリペ二世の誕生祝賀闘牛を催し、自ら馬にまたがって闘牛技を披露した。

これは、その折のことを記したモラティンの記述をもとに、ゴヤが再現したものである。馬にまたがったカルロス五世が、右手で構えた槍を牡牛の頭に突き刺している。カルロス五世と牡牛との格闘に焦点を当てるために、背景は極力単純化され、見る者の視線が戦いに集中するよう配慮されている。


(英雄エル・シッド牡牛を槍で突く)

エル・シッドは、11世紀に実在した騎士で、レコンキスタの英雄として、スペイン人には馴染みの深い人物である。この人物についても、モラティンの著作は言及しており、ゴヤはそれに依拠してこの絵を制作した。

上の絵のなかのカルロス五世同様、エル・シッドも馬にまたがり、両手で抱えた槍を牡牛の肩から胸にかけて突き刺している。この絵を見ると、エル・シッドと馬の呼吸がぴったりと合っていることが伝わってくる。

上の絵と見比べると、カルロス五世とエル・シッドの衣装は、ほとんど同じである。二人の生きた時代には、五世紀のずれがあるわけだから、当然服装も違っていたと思われるが、ゴヤはその点については、ほとんど無頓着といってよいようだ。





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