壺齋散人の 美術批評
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飛翔:ゴヤの版画「妄」



(飛翔法)

レオナルド・ダ・ヴィンチが「飛行する機械」を構想して以来、人類が鳥のように飛翔するイメージが人々の心を捉え続けた。ゴヤもまたそのイメージを共有した一人だったようだ。

ダ・ヴィンチの飛行機械は、ずっと無機的なものだったが、ゴヤのそれはいかにも人間的だ。というのも、人間が機械によって飛ばせてもらうというより、人間自身が人間以上の能力を付与されて自力で飛ぶというイメージになっているからだ。

この絵の中の人間たちは、こうもりの羽のような巨大な羽を身につけ、自力で空を飛んでいる。まるで巨大な鳥になったようだ。

こうした鳥人たちともいうべきものたちのイメージが、アクアチントで表現された漆黒の背景からくっきりと浮かび上がっているところは、人間の情念の強烈さを感じさせるところだ。


(馬鹿者たちの妄)

この絵では、人間ではなく牛たちが空を飛んでいる。人間は、鳥になることで自由な飛翔の能力を身に着けると考えられたが、牛になることは、邪悪さへの懲罰と考えられた。それゆえ、この絵の中の牛たちは、嬉々として飛んでいるというよりは、邪悪な妄念に駆られて空中をさまよっていると解釈できる。

そう思いながら絵を眺めていると、牛どもの愚頓な表情やら、その仕草にまともな意味がないことなどが、見えてくるような気がする。





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