壺齋散人の美術批評
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思い出、あるいは心臓 フリーダ・カーロの世界




「思い出、あるいは心臓(Recuerdo o El corazón)」と題されたこの絵は、夫ディエゴと妹クリスティーナの肉体関係への彼女の深い悲しみを表現したものだと受け取られる。フリーダは、人間の悲しみを、身体から飛び出た心臓で表現する傾向があった。この絵のなかでは、彼女の胸から飛び出た心臓が、画面左下の砂地の上にころがり、どす黒い血を流している。地は砂浜に流れ、さらに海へと注いでいる。フリーダは、砂浜と海の境界に立っているのだ。

フリーダの両側には一本の腕だけをおさめた服が描かれている。左側は、女子の学生服で、袖からのびた左腕は、彼女に向かって差し出されているが、触るまでにはいかない。右側は、メキシコの伝統服テワナで、その肩の部分から伸びた右腕がフリーダを支えているように見える。

フリーダの心臓のあったあたりは、金属の杖で貫かれている。杖は人によって握られているわけではなく、自力で空中を動いている。心臓を突き刺されたフリーダは、観客に向かって無表情な顔を見せており、その両目からは涙があふれている。なぜか彼女の両腕には手がついていない。

(1937年 金属プレートに油彩 40×28㎝ パリ、個人コレクション)



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