壺齋散人の美術批評
HOME ブログ本館 | 東京を描く 水彩画 日本の美術 プロフィール 掲示板




傷ついた鹿 フリーダ・カーロの世界




1946年、フリーダはニューヨークで脊椎の大手術を受けた。18歳の時の事故で脊椎を損傷し、それ以後ずっと苦しんできた。手術によってその苦しみから解放されるという期待をもって、彼女は手術に臨んだのだが、結果的には失敗だった。痛みはかえってひどくなったのである。「傷ついた鹿(El venado herido)」と題されたこの絵は、自分の傷だらけの身体を傷ついた鹿にたとえたものである。

モデルの鹿はフリーダのペットである。その鹿の頭を自分の顔にかえてある。そのことで、傷ついた鹿は自分自身のイメージなのだといっているわけである。

鹿は森の中にいて、首から背中にかけて矢が刺さっている。痛みの所在をあらわしているのだろう。森はほとんど木の幹からなり、右手前の木は幹の一部が欠けている。フリーダの心の中の空虚を暗示させる。鹿の足元には葉っぱをつけた枝が落ちているが、これも欠乏感のあらわれか。森の背後には水が広がり、空には稲妻が走っている。不穏な雰囲気だ。その雰囲気が、フリーダの心の不安と呼応しあっているようだ。

(1946年 メソナイトに油彩 22.4×30㎝ プライベート・コレクション)



HOMEフリーダ・カーロ | 次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである