壺齋散人の 美術批評
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新しい天使(Angelus novus)クレーの天使




クレーの「新しい天使(Angelus novus)」と題した作品は、1920年に創作したものである。この時期は、クレーにとってひとつの転換期にあたっており、そうした時期の抱負のようなものが、この絵の題名にも表れているようである。

この絵は、ドイツの不運の思想家ワルター・ベンヤミンとのかかわりを通じて、思想史上にも大きな影を落としている。ベンヤミンは、この絵を1921年にミュンヘンの画商のところで見かけて、かなり高価であったにかかわらず、衝動的に買ったといわれる。ベンヤミンは、それ以前から、クレーの作品に共感を覚えており、また、当時計画していた雑誌の題名に新しい天使という名を考えていたという事情もあって、是非もなく買う気になったのだと思われる。

爾来ベンヤミンは、死ぬまでこの絵を持ち歩いたばかりか、遺稿となった「歴史の概念について」と題するアフォリズム集のなかでこの絵を取り上げ、これを「歴史の天使」と言い換えて、ベンヤミン独特の理論を展開している。

ベンヤミンによれば、天使の顔が向いているのは未来ではなく過去であり、またその翼は、過去から吹いてくる強い風を受けて膨らんでいるということになる。ベンヤミンの死後、この絵は親友のゲルショム・ショーレムの手にゆだねられ、いまは、イスラエルの図書館に保存されている。

なお、この絵は、和紙の上にペンで線を引き、それにクレー独特の方法で顔料を塗りつけている。(サイズは、31.8×24.2cm)





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