壺齋散人の 美術批評
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魚の魔術(Fisch Zauber):クレーの天使




クレーは、魚が好きだったのだろうか、魚のモチーフを繰り返し描いている。この絵は、幻想的な空間を泳ぎまわる魚の群れを描いたもの。「魚の魔術(Fisch Zauber)」と題しているのは、魚たちを対象にした魔術なのか、魚たち自身が行っている魔術なのか。どちらとも読み取れる。

真っ黒い空間は、光の届かない深海をあらわしているようだ。そこに、形も色も大きさも異なる6匹の魚が泳いでいる。魚たちの中心には時計があって、その時計は塔とともに糸で吊るされている。まるで、魚たちの代わりに釣られてやったといわんばかりである。糸の反対側には三日月があって、小さな球体を抱いている。球体は画面の反対側にもある。そして二つの球体の間には、もうひとつの絵が隠されている。

このほかに、キクやひまわりに似た植物、砂時計のような形をした花瓶、そして二人の人間も描かれている。どれもこれも皆、この幻想的な世界の構成員たちだ。

魚は海の中を泳いでいる点で、天上からやってきた天使たちとは正反対の生き方をしている。でも、こうして幻想的な舞台を泳ぎ回っている姿は、天使のように自由自在に見える。

(1925年、イラクサの布に油彩+水彩+ワニス、77.5×89.0cm、フィラデルフィア美術館)





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