壺齋散人の 美術批評
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マルガレーテ・ストロンボロ=ウィトゲンシュタインの肖像:クリムト





この絵のモデルは、ウィーンの実業家でクリムトのパトロンでもあったカール・ウィトゲンシュタインの娘である。二十世紀哲学の巨人ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは彼女の弟である。また、ラヴェルが「左手のためのピアノ協奏曲」をささげたというパウル・ウィトゲンシュタインも彼女の弟である。パウルは有能なピアニストであり、第一次大戦で従軍して右腕を失った後も、左手だけで演奏活動を続けた。

この絵は、彼女が二十三歳でストロンボロ家に嫁いだときに、父親が結婚祝いとして贈ったものである。贈られたマルガレーテはしかし、この絵が気に入らなかった。髪の毛が黒すぎるし、眉毛も野蛮な感じがするという理由からだと言われる。黒々として、しかももつれた髪は、当時のヨーロッパ社会では、ユダヤ人の標識とされていたので、ユダヤ人である彼女は、そこに自分への侮辱を感じたのかもしれない。そんなわけでこの絵は、ストロンボロ家の倉庫に投げ込まれたまま、飾られることもなかったが、1960年にストロンボロ家がミュンヘンの美術館に売却した。世界の美術ファンとしては、そのほうがよかったわけだ。

注文を受けて描いた肖像画だが、他の同じような肖像画が印象派風にぼかした描き方をしているのに対して、この絵には、クリムトらしいところが見られる。背景には装飾的なパターンが施されているし、モデルの服装も、かなり手のこんだ描き方になっている。

クリムトの肖像画の女性たちは、みな非現実的なプロポーションに描かれているが、この絵の中のマルガレーテも、十頭身以上のプロポーションになっている。



これはモデルの顔の部分を拡大したもの。顔の背景として装飾的なパターンを配置するのは、クリムトの特徴の一つだ。

(1905年 カンヴァスに油彩 180×90cm ミュンヘン ノイエ・ピナコテーク)





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