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フリッツァ・リートラーの肖像(Boldnis Fritza Riedler):クリムト





この絵のモデル、フリッツァ・リートラーはオーストリア政府高官の妻ということ以外詳しいことはわからない。この絵がどのような経緯で描かれたかについても、詳細はわからない。肖像画の注文を受けて描いたというのが自然な解釈だが、クリムトが注文を受けて描いたほかの肖像画とは、かなり異なるところがある。

まずモデルの器量だが、中年女性の余りぱっとしない表情で、理想化と縁が無い。クリムトのほかの肖像画には、多かれ少なかれモデルを理想的な美しさに近づけようとする配慮が働いていたが、この絵にはそのような様子が伺われない。

また、構図的にも普通の肖像画とは印象が異なる。遠近法をほとんど無視して、モデルと背景とを同じ平面に描く一方、背景や小道具に装飾的なパターンを配している。肖像画というよりは、女性の肖像を材料に組み込んだ装飾画といった具合だ。特に女性が腰掛けている椅子には、孔雀の羽の目を思わせるようなパターンが、平面的に並べられている。この椅子と女性との間には、遠近感による前後関係が感じられない。クリムトはそれを意識しながら描いているようだ。



これは、女性の顔の部分を拡大したもの。背後に見える装飾パターンが、女性の髪の延長のように見えるが、これはベラスケスの作品「幼少のマリア・テレサ」の髪の飾り付けにヒントを得たものらしい。ベラスケスのマリア・テレサは、自分の髪を横に大きく広げていたが、この絵の女性の場合には、背後のパターンを髪の一部のように見せかけている。

(1906年 カンヴァスに油彩 153×133cm ウィーン オーストリア国立美術館)





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