壺齋散人の 美術批評
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水蛇Ⅰ(WasserschlangenⅠ):クロムとのエロス





「水蛇」と題したこの絵は、写真で見ると大作のように見えるが、実際には小品(50×20cm)である。構図が非常に複雑で、モデルも表情に迫力があるので大作のように映るのだろう。そのモデルは二人の女性で、どうやら抱き合っているようである。抱き合いながら恍惚の表情をしていることから、一見してレズビアンだとわかる。世紀末は女性同士の同性愛たるレズビアンが、ヨーロッパ芸術の大きなテーマの一つになっていた。

向こう側の女性は、首をほぼ直角に傾けてもう一人の女性の頭のうえにもたれかけている。手前の女性には両腕が見えないが、これはもともと付いていないのか、あるいは自分の胸元に回しているのか、はっきりしない。どちらの女性も、非常に長い胴体が、蛇のそれを思わせる。

テーマになっている水蛇は、鱗の模様で暗示されているだけで、頭や胴体の輪郭ははっきりしない。一方画面右下にうなぎの怪物のような形象が描かれている。目玉と口とが反対の方向を向いているグロテスクなイメージだ。



これは二人の女の頭の部分を拡大したもの。向こう側の女が首を直角に曲げ手前の女の髪の上に持たれかけている。このポーズは「人生の三時期」の母親のものと似ているが、そちらが幼い子どもに持たれているのに対して、こちらは女の恋人にもたれかかっている。

(1907年 カンヴァスに油彩 50×20cm ウィーン 国立オーストリア美術館)





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