壺齋散人の 美術批評
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接吻(Der Kuß):クリムトのエロス





金色を多用したクリムトの「黄金様式」を代表する作品である。男女が抱き合う構図はベートーベン・フリーズの中にも見られたが、そこでは男の大きな背中に隠れて女の表情は見えなかった。この絵の場合には女性の恍惚とした表情があらわにされ、彼女の顔に口付けする男の顔は半分見えるだけである。クリムトは、男女の接吻を描きながら、女のほうに比重をおいているわけである。

二人が抱き合っているのは、花園の上なのだろう。その上に女が膝を折り曲げて座り、その彼女を男がやさしく抱きしめている。クリムトの絵によくあるように、女はほぼ直角に首を曲げている。その目は閉じられて恍惚とした雰囲気を漂わせている。

この二人を金色の衣装のようなものが包み込んでいるが、その部分が背景に比べて明るいので、浮き上がっているように見える。よく見ると、女の身体のラインはしっかり描かれているが、色価が周囲とほぼ同じなので、ちょっと見た感じでは背後に溶け込んでいるように見える。

男の衣装と女の衣装とではパターンが対照的だ。男のほうは直線的で、女のほうは曲線的だ。絵全体の感じがエロティックなわりに、女のボディラインは中性的だ。なお、この二人のモデルは、クリムト自身と、当時彼の愛人であったアデーレだったといわれる。



これは男女の上半身を拡大したもの。男が両手で女の顔を支え、女のほうは右手で男の肩を、左手で男の右手をつかんでいる。

(1908年 カンヴァスに油彩 180×180cm ウィーン 国立オーストリア美術館)




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