壺齋散人の 美術批評
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死と生(Der Tod und Leben):クリムト





「死と生(Der Tod und Leben)」と題されたこの絵は、20世紀初頭に流行したフロイトの思想を踏まえた「エロスとタナトス」の具象化とも、ヨーロッパ中世を席巻した「死の舞踏」の現代的解釈とも言われた。

左側の骸骨が、タナトスとか死の舞踏のイメージを喚起するというのは無理な見方ではないだろう。それに比べると、右側の群像はどんなイメージを喚起するだろうか。この群像の中には、クリムトには珍しく、生まれたばかりの子どもが加えられている。クリムトの群像には、女の裸体ばかりのものが多く、そこには当然エロスの匂いを嗅ぎ取ることができるのだが、この絵は、そう簡単にエロスとは割り切れないようだ。

やはりタイトルを素直に受け取って、左側を死の、右側を生命のイメージととらえたほうが素直だろう。死を骸骨でイメージするのは、中世以来の西洋芸術の伝統であるし、生命を生まれたばかりの子供の姿でイメージするのも同様の伝統を受けたものだ。



これは骸骨の部分を拡大したもの。この骸骨は、目が生きているような光をたたえ、手指も生きているようである。その手指で棍棒を握っているが、骸骨が棍棒を振りかざして人間に襲い掛かるというイメージは、クリムト特有のものではないか。

(1916年 カンヴァスに油彩 178×198cm 個人蔵)




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