壺齋散人の 美術批評
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サロン・デ・サン:ロートレックのポスター





このポスターには「国際ポスター展」というレタリングが付されており、実際1895-96年に開催された同展覧会のポスターとして使われたのであったが、ロートレックはこのポスターをそういうつもりで作ったわけではなかった。このポスターには込み入った事情があったのである。

1895年の夏、ロートレックは友人のモーリス・ギルベールと共に、ル・アーヴルから蒸気船チリ号に乗ってボルドーまでの航海の旅をした。その時に船上で一人の女性を見初めてすっかり恋に落ちてしまった。この女性はダカールにいる夫のもとへ向かう途上だった。そこでロートレックは、ボルドーでは下りずに、リスボンまでこの女性に同行した。

ボルドーを経てパリに舞い戻ったロートレックは、その女性の面影をいつまでも失わないように、イメージの形で残しておきたいと思った。そうして生まれたのがこのポスターなのだ。それゆえこのポスターには、ロートレックが夢中になった女性の雰囲気が生き生きと盛り込まれているわけである。

ポスターの中の女性は、船の甲板の上で安楽椅子に腰かけ、海のほうを漠然と見ている。恐らくダカール行きの船の中でロートレック自身が見た姿をそのまま再現したのだろう。そんなわけでこのポスターは、国際ポスター展を宣伝しているにもかかわらず、それらしきメッセージが伝わってこないのである。

顔料は、黄色、オーカー、赤、シアン、ダークブルー、黒の六色を用い、ロートレックのポスターとしては、やや派手な感じを醸し出している。

(1895年 リトグラフ 59×40㎝)




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