壺齋散人の 美術批評
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豪奢(Luxe):マティス、色彩の魔術





(豪奢Ⅰ 1907年、キャンバスに油彩、210×138cm、パリ、国立現代美術館)

1907年から翌年にかけて二点描かれた「豪奢(Luxe)」と題するシリーズは、マティスのフォーヴィズムからの脱却と飛躍を物語るものとして興味深い。まず1907年に描かれた「豪奢Ⅰ」は、まだフォーヴィズムの印象を色濃く残している。ところが翌年にそれを描きなおした「豪奢Ⅱ」には、フォーヴィズムの面影は殆どなく、マティスが新たな段階に踏み込んだことを如実に物語っている。

「豪奢Ⅰ」は、テーマとしては「生きる喜び」の延長上にあるものだ。はっきりとした対応関係は認められないが、裸の女性たちの大らかなたたずまいは、「生きる喜び」の画面にあってもおかしくない。あるいは「生きる喜び」の画面から飛び出してきた何人かの女性たちが、この絵の中のポーズをとっていると見なしてもおかしくない。

この絵の中には、ボッテチェルリのヴィーナスの誕生のイメージが盛り込まれている、というのが普通の解釈だ。海から生まれたばかりのヴィーナスを、二人の女たちが世話をしている。そのうちの一人は誕生祝の花束を持っている。ヴィーナスの髪が短いのは、現代風を気取っているのだろう。

一見ぞんざいな絵の具の塗り方とか、多少調和を破った感のある配色の仕方などに、フォーヴィズムの色濃い名残がある。


(豪奢Ⅱ 1908年 キャンバスにカゼイン 209.5×138cm コペンハーゲン、国立美術館)

ところが、翌年描かれた「豪奢Ⅱ」には、フォーヴィズムとは全く異なった印象の世界が展開された。構図はほぼ同じだが、配色やブラッシングワークが全く違った流儀になっている。色はウォッシュで平板さを強調し、色のそれぞれの領域が自分の個性をありのままに強調し、互いに対立しあっている。フォーヴィズム時代には、隣接する色同士が融合することで、色の調和を図っていたから、これは大きな変化といえる。





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