壺齋散人の 美術批評
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二人のオダリスク(Deux odalisques):マティス、色彩の魔術





マティスは1925年の夏に、家族を伴ってイタリアに旅行した。その時にミケランジェロの作品を集中的に見て、それを踏まえた多くの習作を生んだ。それらは、いわゆるミケランジェロ・タッチと呼ばれるダイナミックな感じのものだった。マティスもミケランジェロ同様、人体に拘った彫刻家でもあったので、二人の人体の見方と表現の仕方には共通するものがあったのだろう。要するに精神性よりも、肉体性(ボリューム感)を重視するものだ。

「二人のオダリスク(Deux odalisques)」と題したこの作品は、1928年のものだ。この頃は、アンリエットが去ったあとだったので、別のプロのモデルを使ったのだと思われる。

アトリエの一角に設えた例の桟敷の上に二人の女を配する。一人は頭を右手に向けて横たわり、もうひとりは、その奥のほうで、肩肘をついて寛いでいる姿である。奥の女は、下の女のほうに軽く視線を向けている、肝心な目は明確には描かれておらず、無造作な線で表現されているだけだ。

この奥のほうの女がミケランジェロの絵や彫刻に似ていることは容易に見て取れる。ミケランジェロの彫刻同様、女の身体はボリューム感にあふれている。座っていながら、つまり制止した姿勢でいながら躍動感を感じさせるのは、ミケランジェロと共通した特徴だ。

この女に対して下の女は、従来のマティスのオダリスクの延長にあるものだ。この女のほうがやや動きにかける印象が強いが、それはもう一人の女を引き立てる役割を持たされているからだろうと思われる。

女たちを取り囲む空間は非常に装飾的だ。装飾性を強調するあまり、実際の見え方にはまったく拘っていない。奥にいる女が、下の女と同じ平面にいるのかどうか、下の女のいる平面がどのような形状になっているのか、画面からは明確に伝わってこない。また伝えようとも、マティスは思っていないようだ。

(1928年 キャンバスに油彩 54×65cm ストックホルム、現代美術館)





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